2012年6月15日金曜日

「Click !」から「GO」へ飛躍したブルックリン美術館の舞台裏

2008年6月27日~8月10日までブルックリン美術館では、「Click !」という企画展が開催されていた。

これは3段階のプロセスで行われた「Changing Faces of Brooklyn」という展覧会で、まず、アーティストに展覧会テーマに沿った写真を撮って応募してもらう。その後、応募作品すべてをオンラインのオープンフォーラムで審査する。審査結果のランクに応じて展覧会に出品されるというものだ。

この展覧会の元ネタというかアイディアは、2004年に出版された「The Wisdom of Crowds」だったそうだ。(この邦題は「みんなの意見は案外正しい」というちょっと変なタイトルになっているので、今なら集団知とか、集合知とした方がぴったりくる)

「Click !」は、「The Wisdom of Crowds」が言うように、「経験を積んだ専門家と同様に、クラウドがアートを審査することができるのか?」を検証するために企画・開催されたようだ。今までとは違うプロセスで新しいスペースを提供された多くのアーティストやローカルの人々が挙って参加したであろうことは想像に難くない。

2008年にブルックリン美術館はそんなプロジェクトをやっていた。もう、もろ手を挙げて降参するしかない。

ところでこの展覧会を企画・運営したのは、キュレーター・学芸員ではなく、情報システム部長のShelley Bernsteinさんだ。ここでも降参の白旗を上げざるを得ない。

この2008年の「Click !」以降、彼女には沢山の人から、次の「Click !」はいつやるのかという質問が絶えなかったらしい。しかし、同じことの繰り返しではなく、「Click !」から学んだことをベースに違った、まったく新しいこととして、2009年にCurrier Museum of Artから移ってきたキュレーター部長のSharon Matt AtkinsさんとShelleyがブレストを繰り返して、練りに練った企画が「GO」だ。
 この「GO」プロジェクトはすでに5月から始まっている。「GO」に関しては参考を参照してもらいたい。

出典:ブルックリン美術館 2008年展覧会「Click !」
出典:ブルックリン美術館 コミュニティ:Bloggers@brooklynmuseum
参考:ブルックリン美術館のクラウドソーシング(速報)

というわけで2008年の「Click !」から2012年の「GO」へと飛躍したわけだ。

この2つのプロジェクトの要、肝は情シス部長のShelleyだ。彼女は、モバイルアクセス、Webベースのコメントブック、収蔵品のデジタル・オンライン化といった美術館と地域コミュニティを結びつけるミッションを担当し、 上記2つのプロジェクトの企画、立ち上げ、運営などに関っている。

彼女が一体どんな人かというと、2007年4月4日からFacebookを始めている。2009年1月からTwitterを開始、いままでに2,674回ツィート、1,163人をフォローし、2,528人のフォロワーを抱えている。リプライも50%を越えていて多くのユーザと会話、コミュニケーションを行っている。ソーシャルメディアやオープンコミュニケーションの申し子のような人だ。彼女自身が美術館がこれからのコアターゲットだと考えるオーディエンスそのものだ。そして、彼女はアーリーアダプターとして館員に大きな影響を与え、最新情報・知識を共有し、美術館オーディエンスとの新しいコミュニケーションとエンゲージメントの可能性を熱く語っていたはずだ(と思う)。

この彼女がいなければ、そもそも2008年に「Click !」を立ち上げることなどできなかったろうし、そしてその拡張・拡大版である「GO」も陽の目を見なかったことは間違いない。

なぜなら2009年にキュレーター部長になったSharonは、Twitterアカウントは持っているがツィートは一度もしていない。Facebookページも友達以外には公開していない。LinkedInでもそうだ。言い方は悪いが、一般的で保守的なレイトマジョリティの代表のような人だ。ソーシャルメディアの知見が浅い、少ないSharon一人では「Click !」から飛躍することも、新しく大きな広がりを持つ「GO」も進まなかったはずだ。

そして、Shelleyの知見を活かす体制、仕組みが作れ、プロジェクトが遂行できたのは、ブルックリン美術館の上層部が危機感を持ち、オーディエンスに対する新しいアプローチ、オーディエンスのスペースにいかに美術館を参加させるかに心を砕いていたからだろう。旧態依然のロジックやプロセス、自身を含めた既存担当から局面打開策は出てこないという危機感が根底にあるはずだ。

いや、キュレーター、館長、情シス、広報、Web担当など多様な部門、部署の担当者が同じ理解を共有していたからこその話かもしれない。

「ブルックリン美術館の舞台裏」は、危機意識、必要な知見の理解、その共有、トップのイニシャティブ、そしてローカルのアーティストや人々とのオン・オフのコミュニケーションから成り立っている。そのどれが欠けても「Click !」も「GO」も走らず、空中分解していたのが関の山だったろうと自信を持って言える。

あなたのミュージアムには同じような舞台裏が御有りですか?
これからのコア・オーディエンス像をお持ちですか?
アーリーアダプターやレイトマジョリティをご存知ですか?
展覧会企画に学芸員以外の職員が参加できますか?
上記と同様の危機感をお持ちで共有されていますか?

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