2012年5月11日金曜日

マーケティング施策の実績を明示するSFMOMA

サンフランシスコの現代美術館、SFMOMAがiPadアプリを提供してアニュアルレポートを配布している。これは美術・博物館として世界初の試みだそうだ。


出典:SFMOMA ニュースリリース
出典:ArtDaily.org ニュース

iPadであれば各種マルチメディア機能を駆使してSFMOMAの2011年版アニュアルレポートを堪能できるわけだ。ただ、iPadがないユーザにも普通のPDFファイルを提供してくれている。

そのPDFの巻頭を飾る3ページ目に「BY THE NUMBERS」というセクションがある。


出典:SFMOMA 2011年アニュアルレポート

曰く、
  • 入館者数 636,057人
  • Webビジット数 2,855,000
  • Facebookファン 56,046人
  • Twitterフォロワー 238,265人
  • ブログ記事 325本
  • email購読者 15,994人
  • YouTubeビデオ再生回数 120,273回
  • ポッドキャストダウンロード数 2,939回
  • モバイルツアー参加者 50,471人
これ以外にも様々な指標ごとに実績が挙げられている。当然、アニュアルレポートなので財務ハイライトもあり、展覧会・企画展やイベント、ワークショップごとの詳細も記載されている。

アニュアルレポートは2011年6月締めなので、以前、紹介したMuseum Analytics(beta)による最新データでは、SFMOMAは米国内の博物館入場者数ランキングでは70万人で14位、Twitterフォロワーは 33万人超で8位、Facebookファンは7.2万人強で19位となっている。ま、中堅の博物館としての位置づけになるのだろう。

参考:マサダ 日本の美術・博物館の50%は新しいことに挑戦していない?

その中堅博物館が、取り入れている施策、指標に注目せざるを得ない。SFMOMAは、Webは当然、そしてFacebook、Twitter、ブログ、YouTube、ポッドキャスト、emailニュースレターなどを活用したマーケティングを行っている。そして、その取り組みの実績をきちんと明示している。

さて、日本の独立行政法人国立美術館には、東京国立近代美術館、京都国立近代美術館、国立西洋美術館、国立国際美術館、国立新美術館の5館があり、それをまとめた年度ごとの実績報告書が上っている。直近3年での各館ごとの所蔵作品展、企画展ごとに入館者数を見ると表のようになっている。


出典: 独立行政法人国立美術館 実績報告・評価等

これを見ると、おおざっぱに言って、SFMOMAは東京国立近代美術館(本館+工芸館)と同じくらいの入館者数を持っていることになる。

そして、その中堅博物館のSFMOMAは、Facebook、Twitter、ブログ、YouTube、ポッドキャストなどの様々な施策を立案、企画、実施し、入館者・アクセス・ダウンロード・コメント・いいね!・シェア・リプライ・RT・お気に入り・その他を増やそうと努力している。ユーザが活動するスペースに参加して、情報・コンテンツを発信し、共有・拡散してもらうための努力を行っている。その最新施策がiPadだ。iPadアプリを開発して無料提供し、アニュアルレポートをより多くの人、博物館利用者、寄付を行ったり活動をサポートしてくれる人達に分かりやすく提供しようとしている。

一方、日本の(独法)国立美術館は...?

上の実績報告・評価には、SFMOMAのように各種施策ごとの実績はない。すなわち、そういった施策を実行していないということになる(見落としただけかもしれないので、ご存知の方はご一報ください)。

実のところそういった施策は必要ないのかもしれない。常設展はいざ知らず、企画展になると様々な共催社の名前がある。新聞社、TV会社、海外美術館、文化庁、その他の支援、後援、協力があり、彼らの強力なメディア露出でプロモーションが行われている。だから、SFMOMAのような手間暇、時間、コスト、人的リソースがかかる施策をやる必要はないのかもしれない。

だって、本部(ポータル)および5館のWebアクセスを見ても京都を除けばSFMOMAの285万ビジットより多い。数倍あるところもある。多くの人がWebへアクセスしてくれる事実があるのだからと。


しかし、国立と名のつかない中堅の美術・博物館は、SFMOMAと同様、いやそれ以上にユーザが活動するスペースに参加して、情報・コンテンツを発信し、共有・拡散してもらうための努力を払う必要があるだろう。

SFMOMAのアニュアルレポートには、IT・システム部門が6名、マーケティング部門が9名、出版・Web部門が10名、それぞれ個人名が記載されている。全体で約200人のスタッフ、アシスタント(アルバイト?)のうちの25名、全体の12.5%、八分の一のスタッフが、学芸員を中心とする美術館のコア(?)業務以外に配置されている。

ここまでのリソースを配置することは日本の中堅美術・博物館には無理かもしれない。しかし、「中の人」だけの思考では、「外の人」の行動パターンも分からず、それに則したアプローチもできない。実のところ、外向け業務こそコア業務だとすれば、おのずと、やるべきことは見えてくる(はず)。

しかし、それにしても国立美術館のうちTwitterを使っているにもかかわらず、1人もフォローせず、リプライもRTもなく、お気に入りやリストを使ったこともないアカウントを見ると、「中の人」だけの思考だなと思ってしまう。

累計4,460件のツィート中6.15%=274件のリプライ、27.27%=1,216件のRTをやっているSFMOMAと比べて、日本の国立美術館のツィートは、残念ながら誰の耳にも届かない「ひとり言」になっているとしか思えない。

SFMOMAは、リプライやRTするために耳をそば立てている。ユーザの声を聞こうとしている。聞いた声に対してレスポンスを返している。それがコミュニケーションだということを理解している。そのコミュニケーションがなければ、自身の言葉やメッセージ、コンテンツが伝わらない、共有してもらえないことを理解している。
出典:TweetStatas.com / SFMOMA

考えてもみてください。あなたが自宅にいる時、メガフォンで「粗大ごみの無料回収車です。パソコン、洗濯機、テレビなど処分にお困りのものがあれば無料で回収します」とがなりたてる音、声、メッセージに耳を貸しますか?

うるさいと怒鳴っても仕方がないので、回収車が通り過ぎるのを待つだけではありませんか?メガフォンマーケティングから会話、コミュニケーションの糸口は開かないのではありませんか?

もうひとつ考えてみてください。もし、あなたの施設が1995年に初めて開設されたスミソニアン博物館のWebサイトと同じ機能しかないとしたら、現在のユーザニーズにどれだけ対応できると思いますか?Webサイトへのトラフィックを計測するだけでユーザスペースに参加していると思いますか?

それとも、あなたの施設のWebは17年前のスミソニアン博物館のWebサイトが提供する機能・サービス・コンテンツ以上のものを提供していますか?


出典:Smithsonian Institution Archives

最後に、上の画像の利用許可を昨日の午後3時、スミソニアン博物館にTwitterで行ったところ7時間後の午後10時、時差を考えれば即リプライが来た。


こういった対応が今のネット時代には必要と思われますか、それとも不要だと思われますか? 米国なら至極当然と考えられるユーザ対応は、「日本」という冠を抱く国立美術館には不要でしょうか?あるいはその他大勢の中堅博物館には不要でしょうか?

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