2012年4月19日木曜日

美術・博物館に必要なマーケティングを考える前に

昨日の「美術・博物館にもマーケティングは不可欠」にちょっと賛同をいただいたので、じゃあ、どんなマーケティングが必要かを考えてみる。

大新聞社やその他有名どころの後援をつけて膨大なレガシーメディアでの露出を稼げる展覧会・企画展をやれる著名、大規模な美術・博物館は限られている。

普通の美術・博物館は、限られた予算の中で、媒体広告、屋外広告、交通広告を検討し、パンフ・チラシ・リーフレットの類を印刷し、市の広報誌と一緒に配布してもらったり、館内や窓口あたりや市の関連施設においてもらう。折角、Webやメルマガ、ブログをやっているからと、そこからアナウンスするぐらいがせいぜいになる。

「いやいやまだまだいろいろとあります」という声が聞こえてきそうだが、本当は「どんなマーケティングが必要かを考えてみる」前に、まず、美術・博物館のオーディエンスはどんな人たちなのか、どんなメディア・コミュニケーションツールを使っているのか、何が彼ら・彼女たちのアンテナに引っかかっているのか、を知ることが先になる。

テート美術館のソーシャルメディア・コミュニケーション戦略の前文に以下がある。
テートオンラインの目的は、英国および世界の現代美術の理解を深めるというテート美術館のミッション完遂を支援すること。テートオンラインは急速に拡大 し、可能性の大きなデジタルコミュニケーションを背景として、新しいやり方で新しいオーディエンスにリーチし、エンゲージする。

テート美術館を体験するオーディエンスを確保し、育成し、その幅を広げたい。現在の利用者から将来の新しいオーディエンスを育成したい。特に、より幅広い若年層にフォーカスしたい。
こういった現状認識なしに、これからのマーケティングを考えることはできないし、無理がある。

参考:テート美術館のソーシャルメディア・コミュニケーション戦略

平成23年度の情報通信白書によれば、余暇行動のなかで「パソコン」がトップを占め、「動物園、植物園、水族館、博物館」は7番目になっている。
そして、情報メディアの利用時間を見ると、平成17年はテレビ、新聞の順だが、平成22年にはテレビに次いでパソコンが2位に食い込んできている。
白書では、「総じて余暇としてのインターネット利用の比重が高まってきていることが分かる」と記している。

出典:平成23年情報通信白書

米国では2002年に比べると2008年時点では、過去12カ月間に美術・博物館へ足を運んだ人が5%ポイントも減っているという事実を明らかにした調査がある。
出典:米国 National Endowment for the Arts

英国でも米国同様に、美術館・博物館へ足を運ぶオーディエンスが減少傾向を示しているのではないだろうか?

デジタルコミュニケーションの爆発がこれまでの前提を変革している、その中心となっている新人類的なオーディエンスにリーチし、エンゲージすること、そこから新しいオーディエンス層の育成を行わなければ...、という認識と危機感があればこそ、テート美術館のソーシャルメディア・コミュニケーション戦略があると考える。

通常メディア、レガシーメディア、既存マーケティングの効果と限界を踏まえ、新しいオーディエンスと彼らが活用しているコミュニケーションツール及び新しい(ソーシャル)メディアを活用することで海図のない航海に踏み出さなければ、これまで通り、いつか来た小路を行き来するだけになる。そして、この小路が袋小路になっているという危機感がテート美術館を揺り動かしたと考えるのは的外れだろうか?

まず、こういった現状認識と危機感を共有することが、次の、これからのマーケティングを考える前提になると思うが、あなたはどう考えられますか?

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